筆者はITクオリティ株式会社という一人法人を、レンタルオフィスを拠点に運営している。設立から6年が経ったいま、会社の電話番号を見直すことにした。本稿は、その過程で気づいたこと──03番号を持つことの手間と、その手間に課されている理由、そして利用実態に照らした結論──を、ひとりの当事者の経験として書き留めたものである。
結論から言えば、便利だからといって0AB-J番号(03などの固定電話番号)を安易に持つべきとも、手間だからやめるべきとも言えない。判断の軸は別のところにある、というのが6年運用してたどり着いた地点だった。
一人法人が03番号を欲しくなる
レンタルオフィスで一人法人を始めると、ほどなく会社の電話番号が必要になる。名刺にも、ウェブサイトにも、登記関連の書類にも、連絡先として電話番号の欄がある。携帯番号をそのまま載せることもできるが、対外的な体裁を考えると、03から始まる固定電話番号(いわゆる0AB-J番号)を持ちたくなる。
0AB-J番号とは、03や06などの市外局番から始まる固定電話の番号を指す。市外局番による地域性、高い通話品質、緊急通報が可能であることなどが制度的に義務づけられており、社会的信頼性の高い番号として広く浸透している。一人法人であっても「03番号の会社」であることには、なんとなく信用が宿るように思える。
会社を設立した2020年当初、筆者はオフィスのひかり電話に番号を追加し、その番号を携帯電話で受けるために「テレワープ」という転送サービスを使っていた。実在の固定回線にかかってきた電話を携帯へ転送する仕組みで、使い勝手はよかった。月額は1,980円(税込)で、転送そのものに通話料はかからない。ただ、受電がほとんどないという利用実態からすると、この固定費はやや割高に感じられた。この構成を2025年まで続けたのち、月々のコストを下げるために、別の方式へ切り替えることにした。
切り替え先として筆者が選んだのが、ドコモビジネス(NTTドコモビジネス)の「モバイル オフィス番号セット」だった。これは「Arcstar IP Voice(ワンナンバー)0ABJプラン」と「ビジネスモバイル Arcstar IP Voice番号通知機能 クラウド番号プラン」をセットにしたサービスで、物理的な固定回線や電話機を引かずに、手持ちのスマートフォン一台で03番号の着信・発信ができる。月額は880円(税込)からと、テレワープの半額以下で、コストを下げるという当初の目的には確かにかなっていた。0AB-J番号にかかってきた通話をスマホに転送し、スマホから発信する際は登録した番号に「0035-43」を付けて発信することで、相手にその03番号を通知できる仕組みである。
レンタルオフィスを拠点とし、常駐しない身軽な働き方をしている一人法人にとって、専用の回線も電話機も置かずに03番号を持てるのは、理屈のうえでは理想的に見えた。ここまでは、カタログどおりの便利さである。
第一の関門──本人限定受取の書留
ところが、切り替えの申し込みを進めると、想定していなかった手間に直面した。契約に伴って、本人限定受取郵便の書留が送られてくるのである。ひかり電話とテレワープで運用していた五年間には、一度もなかった手間だった。
本人限定受取は、名宛人本人にしか交付されない。配達員が訪れても、レンタルオフィスの受付が代理で受け取ることはできない。受付ができるのは、不在票を預かっておいて筆者に連絡してくれることだけである。つまり、レンタルオフィスを選ぶ時点で「不在票をきちんと保管し、連絡してくれる有人受付であるか」が、暗黙の条件になる。無人受付やメールボックスのみのプランでは、ここで詰まる可能性がある。
そして筆者自身は、その不在票を持って郵便局の窓口まで出向き、本人確認書類を提示して書留を受け取らなければならない。レンタルオフィスにした理由が「常駐しない・身軽に動く」ことだったとすれば、この物理的な出社は、地味に効く皮肉だった。
しかも、その郵便局が近いとは限らない。ITクオリティ株式会社のレンタルオフィスは、川崎駅から徒歩数分の距離にある。ところが、この本人限定受取を受け取る窓口は、川崎港郵便局という海寄りの郵便局だった。公共交通機関で向かうと、バスで20分ほどかかる。駅前の利便性を見込んでオフィスを構えたはずが、書留ひとつのために、わざわざ港のほうへ出向くことになる。
手間は繰り返される──そして中身は空だった
初回だけの一過性の手間であれば、「最初さえ越えれば」で済む話である。だが、そうではなかった。
この本人限定受取の書留は、その後も定期的に届く。筆者の体感では、3か月に1回ほどのペースである。そのたびに、不在票を受け取り、郵便局へ出向き、本人確認をして受け取る、という一連の手続きが発生する。
しかも、その中身には実質的な用件がない。受け取り以外に何もする必要はない、という趣旨の紙が入っているだけだった。それでも、郵便局へ取りに行くという物理的な手間だけは、確実に発生し続ける。
重要書類だから本人限定で送られてくるなら納得もいく。だが中身は実質ゼロで、それでいて最も手間のかかる受取形式だけが課される。この形式と実質の乖離こそが、レンタルオフィスで一人法人を営みながら03番号を維持することの、目に見えにくいランニングコストだった。
補足:本人限定受取郵便は、まず到着通知が普通郵便で届き、それを持って本人が窓口で受け取る、という二段構えの制度である。筆者が受け取っている「用件のない紙」が、契約上の通知そのものなのか、この制度上の到着通知に類するものなのかは、現物を精査していないため断定しない。いずれにせよ、本人による受取行為が定期的に求められることに変わりはない。
なぜ、この手間が課されるのか
では、なぜ電話番号ひとつのために、これほどの手間が定期的に課されるのか。筆者は、これを契約者の実在性を確認するための事業者側のリスクヘッジだと考えている。実態のない法人に0AB-J番号を渡していないことを、継続的に確認しているのではないか、と。
この推論には、制度的な背景がある。
0AB-J番号は社会的信頼性が高い。だからこそ、その信頼性が悪用されてきた。振り込め詐欺などを行う者は、0AB-J番号が高い信頼性を持つことを熟知しており、クラウドPBXなどを利用して03や06から始まる地域番号を取得する。地域番号からの着信は信用されやすく、相手も安心して応答してしまう、と言われる。固定回線を伴わずにスマホで03番号を持てるサービスは、便利である反面、まさにこの悪用経路になりうる構造を抱えている。
これに対し、総務省は対策を進めてきた。特殊詐欺への悪用を防止する観点から、電気通信役務の契約締結時における本人確認が制度的に強化されてきた経緯がある。実際、このサービスの申込時にも、特殊詐欺対策として強化された契約時の本人確認の一環として、申込者の個人情報(氏名・生年月日・住所など)および公的証明書の提示などが求められる。入口で本人確認を行うことは、制度上の建付けとして確かに存在する。
筆者の推論は、その入口確認を「継続的にも行っている」と解釈する自然な延長線上にある。ここで思い当たるのは、筆者が切り替えで手放したのが、まさにこの実在する固定回線だったことである。ひかり電話という裏づけがあったテレワープ期には、この手間はなかった。実在の回線という裏づけを失った番号について、事業者がその実在性を別の手段で──おそらくは定期的な本人限定受取で──確かめ続けているのだとすれば、説明はつく。0AB-J番号という信頼性の高い番号を、実態のない事業者に渡さない・渡し続けないための仕組みだと考えれば、年4回の郵便局通いにも筋が通る。番号の社会的信頼を支えるコストを、利用者側も分担している、というわけである。
注記:ここで事実と推論を分けておく。「IP電話の特殊詐欺悪用に対し、契約時の本人確認義務が制度的に強化されてきた」こと、「0AB-J番号が信頼性ゆえに悪用の標的になりやすい」ことは、総務省資料等で確認できる事実である。一方、「3か月に1回の定期的な本人限定受取が、特定の指示文書に一対一で基づくものである」という対応関係までは、筆者は確認できていない。定期送付の正確な根拠については、事業者への問い合わせなど、別途の確認が必要である。本稿の該当部分はあくまで筆者の解釈として読まれたい。
6年後、実態に照らして測り直す
手間に理由があることは理解できた。では、その理由を引き受けてまで維持してきたこの03番号は、筆者のビジネスで実際に働いていたのだろうか。
6年間の受電実績は、3回だった。
切り替えてからは、年に4回ほど郵便局へ通うことになった。そのランニングコストを払って維持する番号への着信は、6年を通じてわずか3回。コストと便益は、完全に逆転していた。
0AB-J番号を持つ実利としてよく語られるのが、法人口座の開設や対外的信用で有利になる、という点である。しかし筆者の経験では、銀行が口座開設時に番号の種別(0AB-Jか否か)を実際に確認しているのかどうかは、不明だった。「03番号だから信用される」という便益そのものが、検証されていない思い込みである可能性がある。
名刺はどうか。名刺に03番号を記載することの「表札効果」も、筆者の実感ではほぼ作用しなかった。そもそも実務では、名刺の番号が何であれ、結局かかってくるのは携帯電話というのが一般的である。
着信の実用、口座開設の信用、名刺の表札──0AB-J番号の便益とされてきた三本柱は、筆者の利用実態に照らすと、いずれも確認できないか、効いていなかった。
050へ──そして気づいた、手間の本当の正体
ならば、月額100円(税別)で持てる050番号で十分ではないか。そう考えて、筆者は楽天コミュニケーションズの「モバイルチョイス”050”」(モバチョ)への移行を検討し、申し込んだ。最小コストで番号を維持できる。
ここで、そもそも会社の番号など持たず、携帯番号をそのまま連絡先にすればいいのではないか、という考えもありうる。受電が6年で3回なら、なおさらである。だが筆者が別の番号を持つ理由は、私用の携帯電話と業務の回線を切り分けられる点にある。携帯番号を会社の連絡先にすると、私用の常時オンの端末に業務の着信が混ざる。24時間いつでも鳴るか、さもなければ時間ごとに留守番電話を切り替える必要が生じる。私用の携帯とは別の050回線であれば、営業時間に合わせて受ける、という運用ができる。番号を別に持つ意味は、信用や体裁ではなく、この受け方を制御できることにこそあった。
当初の見立ては単純だった。0AB-Jは手間がかかる、050なら手軽だろう、と。
ところが、申し込んでみて気づいた。050のモバチョも、法人名義で取得するには本人限定受取の書留で実在確認が行われるようなのである。
つまり、手間の正体は0AB-Jか050かという番号の種別ではなかった。「法人名義で電話番号を取得すること」そのものに、実在確認の手間がついて回るのである。
これは、前段で調べた制度的背景とも完全に整合する。050のいわゆるアプリ電話についても、特殊詐欺対策として本人確認義務の対象に含まれている。番号が050になったところで、実在確認から逃れられないのは、むしろ当然だった。
結論──選ぶ基準は「手間の有無」ではない
法人で電話番号を持つ以上、番号の種別を問わず、実在確認の手間は避けられない。これは特殊詐欺対策という社会的要請の裏返しであり、引き受けるべきコストである。
だとすれば、一人法人が電話番号を選ぶ基準は「手間があるかないか」ではない。手間はどの道ついて回る。問うべきは、その手間に見合うだけその番号を使うのか、そして月額コストはいくらか、である。
筆者のように受電が6年で3回、名刺の表札効果もほぼ感じられない一人法人にとっては、同じ実在確認の手間を払うのなら、月100円で済むほうが筋が通る。これが、6年間03番号を運用してたどり着いた結論だった。
電話番号選びに限らないのかもしれない。一人法人の固定費は、世間の通説や「あったほうが信用される」という漠然とした不安で決めるのではなく、自分の利用実態でコストと便益を一つずつ測り直すこと。そうして初めて、何が本当に必要かが見えてくる。
本稿は筆者の一人法人運営における実体験に基づく記録であり、特定のサービスを推奨・否定するものではない。制度や各サービスの仕様は変更される場合があるため、契約にあたっては各事業者および総務省等の最新の情報を確認されたい。本稿中の制度的背景に関する解釈には筆者の推論を含み、その旨は本文中に明記した。