ホースの先端を絞る感覚から、衝動水車を理解する
ペルトン水車について学んでいると、次のような説明に出会います。
ペルトン水車では、ニードルを絞ると流量は変わるが、流速はあまり変わらない。
最初にこれを聞くと、少し違和感があります。
なぜなら、日常経験では、ホースの先端を指で絞ると水の勢いが強くなるからです。
ホースの出口を絞ると、細く速い水流になります。 それなら、ペルトン水車のニードルを絞っても、流速が上がるのではないか。
この疑問から考えてみます。
流量と流速は違う
まず、流量と流速を分けて考えます。
流量は、単位時間に流れる水の量です。 流速は、水そのものが移動する速さです。
式で書くと、
\[ Q = A v \]
です。
ここで、
- \(Q\):流量
- \(A\):水が通る断面積
- \(v\):流速
です。
つまり、流量は「通り道の広さ」と「水の速さ」の積です。
したがって、水の速さが同じでも、通り道が狭くなれば流量は減ります。 逆に、通り道が同じでも、水の速さが速くなれば流量は増えます。
ペルトン水車のニードルが主に変えているのは、このうちの断面積 \(A\) です。
ホースを絞ると流速が上がる理由
日常のホースでは、先端を絞ると確かに水の速さが上がります。
ただし、これは「絞ると必ず流速が上がる」という単純な話ではありません。
ホースを全開にしていると、たくさんの水が流れます。 流量が多いと、ホース内部の摩擦損失も大きくなります。 その結果、ホース先端まで十分な圧力が残らず、水は比較的だらっと出ます。
そこでホースの先端を指で絞ると、流量が減ります。 流量が減ると、ホース内部の摩擦損失も減ります。 すると、絞った部分の手前に圧力が残ります。
その圧力が、狭い出口で水の速度に変わります。
つまり、ホースの先端を絞ると、
- 流量が減る
- ホース内の圧力損失が減る
- 先端手前に圧力が残る
- その圧力が出口で速度に変わる
ということが起きます。
だから、水が細く速く飛び出すのです。
しかし流速は無限には上がらない
では、ホースの先端をどんどん絞っていけば、流速は無限に上がるのでしょうか。
もちろん、そうはなりません。
流速の上限は、最終的には水を押している圧力で決まります。
おおまかには、
\[ v \approx \sqrt{\dfrac{2\Delta p}{\rho}} \]
と考えることができます。
ここで、
- \(v\):流速
- \(\Delta p\):出口手前と大気圧との差圧
- \(\rho\):水の密度
です。
つまり、使える圧力差が決まっていれば、そこから得られる流速にも上限があります。
ホースを絞っていくと、ある段階までは流速が上がります。 しかし、出口手前の圧力が水道圧に近づくと、それ以上使える圧力はありません。
その後、さらに絞っても、主に変わるのは流速ではなく流量です。
穴が小さくなるので、同じような速さの水が、より少ない量だけ出るようになります。
ペルトン水車のノズルは、最初から「頭打ちに近い流速」を作っている
ここでペルトン水車に戻ります。
ペルトン水車では、水はノズルから高速ジェットとして噴出します。 このノズルは、落差や圧力エネルギーを、できるだけ効率よく運動エネルギーに変えるための装置です。
水の流速は、おおまかには落差 \(H\) で決まります。
\[ v \approx \sqrt{2gH} \]
ここで、
- \(v\):ノズルから出る水の流速
- \(g\):重力加速度
- \(H\):有効落差
です。
この式で重要なのは、流速が主に落差で決まっていることです。
ノズルの開口面積を小さくしたからといって、落差そのものが大きくなるわけではありません。 したがって、水1kgあたりが持っているエネルギーは大きくは変わりません。
ペルトン水車のノズルは、すでに落差によって得られる上限に近い流速を作っています。
だから、ニードルを絞っても、さらに流速を大きく上げる余地はあまりありません。
変わるのは、主にジェットの太さです。
ニードルを絞るとは、同じ速さの水の「本数」を減らすこと
ペルトン水車のニードルを絞ると、ノズルの開口面積が小さくなります。
すると、
\[ Q = A v \]
のうち、\(A\) が小さくなります。
一方、\(v\) は主に落差で決まっているため、大きくは変わりません。
したがって、流量 \(Q\) が減ります。
直感的には、次のように考えるとわかりやすいです。
高速道路を走る車を考えます。
車の速度が水の流速です。 車線数がノズルの開口面積です。 一定時間に通過する車の台数が流量です。
4車線を1車線に減らしても、1台1台の速度が同じなら、通過する台数は減ります。 でも車の速度そのものは変わりません。
ペルトン水車のニードルは、水の速度を直接落とす装置というより、高速で流れている水の通り道を細くして、流量を調整する装置です。
衝動水車とは何か
この理解は、衝動水車と反動水車の違いにもつながります。
ペルトン水車は衝動水車です。
衝動水車では、ランナに入る前のノズルで、圧力エネルギーをほぼ運動エネルギーに変えてしまいます。
つまり、
圧力エネルギー
↓ ノズル
高速ジェット
↓ ランナ
水流の向きを変えて回転力を得る
という仕組みです。
ランナに当たる水は、基本的には大気圧の高速ジェットです。 ランナの中で圧力がさらに下がって仕事をするのではなく、高速水流の運動量を変えることで力を得ます。
これが「衝動」水車です。
反動水車との違い
一方、フランシス水車やカプラン水車のような反動水車では、ランナに入った後も水に圧力が残っています。
ランナ内部で水の圧力が下がり、その圧力降下と流れの向き・速度の変化によって羽根に力が働きます。
つまり、反動水車では、
圧力エネルギー+運動エネルギー
↓ ランナ内部でも圧力が下がる
回転エネルギー
という形になります。
衝動水車は、ランナの手前で圧力をほぼ運動エネルギーに変えている。 反動水車は、ランナ内部にも圧力差を残している。
ここが大きな違いです。
だから衝動水車はポンプになりにくい
この違いは、水車を逆向きに使えるかどうかにも関係します。
反動水車は、ランナ内部に水が満たされ、圧力差を扱う構造になっています。 そのため、逆向きに動かすことで、水にエネルギーを与え、圧力を上げるポンプとして使いやすい構造です。
実際、揚水発電ではフランシス形のポンプ水車が広く使われています。
一方、ペルトン水車では、水はノズルから大気中に高速ジェットとして飛び出し、バケットに当たります。 ランナは密閉された流路の中で水圧を受けているのではありません。
ペルトン水車を逆に回しても、水を連続的に吸い込み、圧力を高めて吐き出す構造にはなっていません。 バケットで水をはね飛ばすことはできても、一般的な意味でのポンプにはなりにくいのです。
ポンプとして働くには、
- 水を連続的に吸い込む流路
- 羽根車で水にエネルギーを与える構造
- 速度エネルギーを圧力エネルギーに戻すケーシングやディフューザ
が必要です。
ペルトン水車には、これらが基本的にありません。
まとめ
最初の疑問は、こうでした。
ホースの出口を絞ると流速が上がるのに、なぜペルトン水車ではニードルを絞っても流速があまり変わらないのか。
この答えは、次のように整理できます。
ホースでは、先端を絞ることで圧力が速度に変わり、流速が上がります。 しかし、流速は無限に上がるわけではなく、使える圧力差で頭打ちになります。
ペルトン水車のノズルは、最初から落差や圧力を高速ジェットに変えるために設計されています。 そのため、ノズル出口の流速はすでに落差で決まる上限に近い状態にあります。
そこでニードルを絞っても、主に変わるのは流速ではなく、ジェットの太さです。
つまり、
ペルトン水車では、ニードルを絞ると、同じような速さで流れる水の量が減る。
ということです。
この理解から、衝動水車の本質も見えてきます。
衝動水車は、ランナに入る前に圧力エネルギーをほぼ運動エネルギーに変えてしまう水車です。 ランナでは、その高速ジェットの向きを変えて力を得ます。
一方、反動水車は、ランナ内部にも圧力差を残し、圧力降下と運動量変化の両方を使って回ります。
だから、反動水車はポンプ水車になりやすく、衝動水車であるペルトン水車はポンプにはなりにくい。
ホースの先を絞るという身近な感覚から出発すると、ペルトン水車のニードル、衝動水車と反動水車の違い、さらにはポンプ水車との関係まで、ひとつの流れで理解できます。