「プロトタイプを差し出しては直す、を繰り返す」——言葉にすると簡単に聞こえます。もう少し具体的に、何をしているのかを説明します。
完成品を一回納めても、頓挫することがある
ある業務課題は、当時の日本最高峰の技術力を持つ大手重電メーカー数社に、それぞれ順番に委託されました。しかし、いずれも頓挫しました。
原因は技術力ではありません。座組みの問題です。「完成品を一回で納める」という形では、途中で出てくる「これでは違う」という声を、致命傷としてしか受け取れません。作り直しには時間もコストもかかるので、否定はできるだけ避けたいものになります。結果として、大きな否定が最後にまとめて来る形になり、そこで頓挫します。
差し出し、否定され、削る
プロトタイピングでは、同じ「これでは違う」を、早く小さく受け取ります。
まず、仮の形をプロトタイプとして差し出します。相手はそれを見て「ここが違う」「これでは足りない」と否定を返します。この否定は失敗ではありません。相手自身が、自分の本当のニーズに気づく瞬間です。
その否定を受けて、不要な部分を削ります。「あれば便利」という要素は、思い切って切り捨てます。そして、削った形をまた差し出す。これを繰り返します。
一枚の板から、すでに中にある形を彫り出していく彫刻に近い動きです。積み上げるのではなく、削って収束させます。
完成させてから見せない理由
このやり方では、最終的な形(To-Be)を最初に確定させることはしません。プロトタイプへの否定を通じて、本当に必要な形が少しずつ明らかになっていくからです。
さらに、検討している間にも状況そのものが動きます。仮に最初の想定が正しかったとしても、時間が経てば前提が変わります。だから、最終形は一度決めて終わりにするものではなく、動かしながら常に見直し続けるものとして扱います。
成果物は、閉じた場所に置かない
現場に深く入り込み、動くものをスピーディーに作っていく関わり方そのものは、今の技術環境では珍しくなくなっています。ただ、この関わり方には見過ごされやすいリスクもあります。現場に深く入り込むほど、成果物が特定の会社の独自の仕組みの上に築かれ、そこから抜け出せなくなることがあるのです。
たとえば、防衛産業を得意とする大手プラットフォーム企業は、顧客の現場に深く入り込み、高速に価値を作ることで知られています。しかしその成果物は、その企業自身の独自プラットフォームの上に築かれます。だから、どれだけ現場に寄り添っても、顧客はそこから離れられなくなります。伴走という人間的な関わり方が、結果として顧客を特定の仕組みに縛りつける入り口になってしまうのです。
ITQはこの逆を行きます。同じように現場に深く入り込みますが、成果物はITQ独自の仕組みの上ではなく、特定のベンダーに属さないMarkdownという形式の上に築きます。自分たちの独自プラットフォームは作らない、という制約を自分たちに課しています。だからこそ、伴走が深くなっても、依頼主がITQに縛られることはありません。
本番運用の構築や運用保守を承っていないのも、同じ歯止めの一部です。深く入り込みながらも居座らない、という自己規律です。
磨かれるのは、御社の側
動くものを一緒に見て、否定し、削り、また差し出す。この反復の中で答えが磨かれていくのは、ITQではなく御社の側です。差し出しているのはあくまで仮の形で、それを本物の形に変えていくのは、否定を返す御社の判断です。