第三者評価から読むシリーズ(1 / 3)

読まれない仕様書と、決まらない会議 ── ITプロジェクトでよく見る風景

こういう場面、見たことありませんか。

大人数が集まって、延々と仕様書を確認する会議。事前に資料は共有されているはずなのに、会議の場で初めて質問が出てくる。有識者が同席していても、その場で考え始めるから答えが出るのに時間がかかる。結局「持ち帰って確認します」で会議が終わる。

これは、参加者の意識が低いからではありません。多くの場合、仕組みの問題です。

会議は「読む場」になっていないか

本来、会議は事前に出された質問に対して、準備された回答案の中からどれを選ぶかを決める場のはずです。ところが実際には、仕様書を読む時間と、意思決定する時間が同じ会議の中に混ざってしまっている。

そうなると、参加者の多くは自分に関係する箇所だけをぼんやり聞き、関係ない箇所では内職をする。誰かが質問しても、その場では正確な答えが出ない。読む時間と決める時間を混同した瞬間に、会議は重くなります。

「資料は事前共有しました」は、読まれた意味ではない

「資料は事前に共有しました」という言葉は、プロジェクトではよく聞きます。しかし、共有されたことと、読まれたことは別です。

多くの場合、会議の場で初めて資料を見て、その場で思いついたことを発言します。「ここはどうなるんですか」「この場合は例外じゃないですか」。質問すること自体は悪くありません。問題は、その質問が事前に出ていないことです。

読まない人を責めるより、「読まれない前提で、どう会議を設計するか」を考えたほうが早いのです。

現場には、仕様書を読む時間も、読む力もない

現場担当者が仕様書を読み、業務との整合を確認してくれれば理想的です。しかし現場は忙しい。日々の業務とトラブル対応の合間に、プロジェクトへ参加しています。

さらに、仕様書は現場にとって読みやすいものではありません。専門用語が並び、条件分岐が複雑で、業務のどこに影響するのかが見えにくい。「読んでください」と言われても、何を確認すればよいのか分からない。

それでも、業務の本質を知っているのは現場です。現場が分からないシステムは、最終的に現場で使われません。だから必要なのは、現場に仕様書を読ませることではなく、現場の言葉とシステムの言葉を、双方向に翻訳する役割です。

正論だけでは、現場は動かない

「仕様書を事前に読んでください」「会議前に論点を整理してください」「全体最適で考えてください」。どれも正しい。しかし現場からすれば、「それができないから困っている」というのが実情です。

正論を振りかざすだけの指摘は、ほぼ確実に無視されます。価値があるのは、現場がなぜそれをできないのかを見て、個人の能力不足ではなく構造の問題として捉える視点です。読む時間がないのか、読む形式になっていないのか、決める人がいないのか——それによって、打つべき一手はまったく変わります。

結局、必要なのは翻訳する人

経営者は全体最適を見ています。投資対効果や業務改革を考えている。一方で現場は、今日の業務を回すことで手一杯です。この二つの世界は、使っている言葉そのものが違います。

経営者の「データ統合」は、現場には「入力項目が増える面倒な話」に見える。現場の「画面が使いにくい」は、経営者には単なる愚痴に聞こえる。

この間に立って、現場の痛みを経営者に伝わる形に翻訳し、経営者の判断を現場にとっての具体的な意味に翻訳する。上から評価するのではなく、横に座る。そういう関わり方が必要なのだと思います。